こんにちは。メディカル翻訳者のVOEGELIです。
コロナ以降の医療翻訳の傾向や変化について個人的に感じたことを書いていきたいと思います。
Webinarなどのリモート会議が増えた
私はもともと主に臨床論文を訳しているのですが、コロナになってからはリモート会議が盛んになりWebinarの翻訳が増えました。
理系の翻訳者に高い英語力は要らないという通説(?)がありますが、英語力は高い方がよいと改めて感じました。
また、口語にも対応できた方が翻訳の幅が広がります。Webinarでは外国人がジョークをとばして笑いをとっていることが普通にあるので、動画をみず文面だけみてジョークだと思わずに訳しているととんでもないことになります。また、発話はテキスト化されていますが、話の流れや雰囲気をつかむためにWebinarは翻訳者も必ず見る必要があります。口語なのでどういう状況なのかわからないと翻訳できないことが多いからです。あとリスニング力もあるにこしたことはありません。
一般的に固い医療文書のみを扱っている方だとこうした案件をこなすは厳しいなという印象を持ちました。もしかしたら文系出身のメディカル翻訳者の方がこういう場面では強い人が多いかもしれません。
医療だけやっていればよいというわけではなく総合力が必要だということをコロナ以降はよく感じました。翻訳者に限って言えば、引き出しが多い方がよいと思いました。Webinar案件が増えてからは、英語のドラマを「勉強」と位置付けて堂々と見ています。字幕翻訳にもこれまでになく注意を払ってどんな訳し方がされているか見ています。
3Dアナトミー
3D技術が発達して、医療の世界でも立体で解剖図が見れる時代となりました。こうした3D関連の案件もちらほらとあります。私自身がすごく助かったと思ったのが、自分自身が 趣味で3 D 画像を作っているので3D画像の作り方を知っていたことです。 医師が使っている3D画像ソフトとは全く違うものですが、 3D画像に対する考え方や操作方法は似ているなと思ったことがあります。
こうしたソフトを使っていなかったら、写真のない文字だけの文章だけでは意味が分からなかったと思います。例えば、レンダリングという言葉がありますが、実際経験してみないと文字をどういう作業なのかが感覚的にわからないと思います。(3Dソフトを勉強しなければならないということではなく、たまたま趣味と案件が合致していて助かったという例です。)
(↑DNAを作りたい!といって3Dソフトを扱い始めました。DNAはまだ作れていませんが、翻訳の助けになりました。)
アプリの操作手順書
スマホ時代になって社員の管理をアプリで行う企業が増えてきたこともあり、アプリの手順書の案件が出てきました。今後ますます増えていくかもしれません。
コロナ関連は一段落
最初のワクチン接種まではコロナ関連の案件が結構あったのですが、2022年は落ち着いていてたまにあるくらいになりました。
AI機械翻訳と人間のハイブリッド翻訳
これはコロナ前からですが、AI機械翻訳が主流になってきました。もちろんAI機械翻訳を導入していない企業さんからの案件は100%の人間による翻訳になりますが、AI翻訳についてはメリットとデメリットがあります。
メリットは、翻訳者が原文の分かりづらいところに意識を集中させることができることです。AIがすでに訳語の候補をサジェストしてくれているので、一から自分で調べずに、その単語が正しい用語であるかどうかをチェックするだけでよいところはとても良いと思います。あとは、私自身がキーボードの打ちすぎで手を痛めてしまった経験があるので、全部手入力しなくてもいいところは健康の面からもよいと思います。
デメリットとしては、翻訳者の単価が下がったということです(AI機械翻訳を嫌がる翻訳者さんが多いのは理解できます)。AI 翻訳機には得手不得手があるので AI 翻訳機が苦手な文書だと訳文がほぼ間違っていることもあります。そうした場合でも機械翻訳の料金を一律で適用されて翻訳者がかえって稼げないという現象がたまに起きます。
翻訳会社のスタッフさんの中には翻訳者のこうした状況を心配してくださる方もいらっしゃいます。転職サイトに「翻訳者さんの待遇の改善が急務です」という投稿を見たときはこうやって親身に思ってくださる方もいらっしゃるんだなあと涙がでそうになりました。翻訳会社に対しては翻訳者と会社が両方幸せになる方法を模索していただきたいとはいつも思っています。
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AI翻訳の精度95%以上は本当?日常的にAIに触れている医療翻訳者が見た実際の精度
「AI翻訳の精度95%って本当か?」と疑問に思っていらっしゃる方は多いと思います。 日常的にAI機械翻訳の翻訳文を見ている翻訳歴7年のメディカル翻訳者から見ると 「精度95%の場合もある」という回答に ...